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千葉地方裁判所佐倉支部 昭和50年(ワ)13号 判決

原告

林勝

被告

野島房之進

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金五六六万六、三八一円およびうち金五〇六万六、三八一円に対する昭和四九年六月二七日から、うち金六〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告らは原告に対し連帯して、金二、七六四万〇、三五六円および内金二、五一二万七、五九七円に対する昭和四九年六月二七日から、内金二五一万二、七五九円に対する昭和五〇年二月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

一  本件事故の発生

1  日時 昭和四九年六月二七日午前八時零分頃

2  場所 印旛郡八街町東吉田三七七番地先路上

3  加害車 被告野島房之進(以下、「被告房之進」という。)保有の乗用自動車(千葉五五た九一二八号)

4  事故の態様 原告は本件事故現場手前で自転車を降り自転車をひいて左右の安全を確認したうえ、横断を開始したところ、被告野島一義(以下、「被告一義」という。)の運転する前記加害車が北進してきて、原告に衝突し、原告をボンネツト上に跳上げ、次いで路上に叩き落した。

二  被告らの責任

1  被告房之進は本件加害車を保有してその運行の用に供していた者であるから自賠法三条による責任

2  被告一義は前方不注視、スピードの出し過ぎ(本件事故当時、加害車は少くとも時速六五キロの速度であつた。即ち、本件加害車のスリツプ痕の左右平均の長さは一三・五五メートルであり、本件現場の道路はアスフアルト舗装で、その表面は非常に目が荒く、乾燥していたから、その摩擦係数は一、二以上であるから、右各数値により本件加害車の速度を算定すると、時速六四・八九となるものである。)および衝突の危険を感じた際、ブレーキを踏んだのみでクラクシヨンを吹鳴し、かつハンドルを転把する等の衝突回避の義務を怠つた過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条による責任

を各負う。

三  原告の負傷

1  原告は本件事故により頭蓋骨々折、硬膜外及び硬膜下血腫の傷害を負い、昭和四九年六月二七日(本件事故日)国立千葉病院に入院し、直ちに頭蓋切開して、血腫除去術及び気管切開術を施行、同年九月一七日頭蓋骨形成術施行、同年一一月二七日脳室腹腔短絡術施行し、昭和五〇年四月一五日まで同病院に入院した。

2  原告の症状は昭和五一年一〇月二五日固定し、その後遺症状として、右半身麻痺・言語障害および脳機能低下が残存し、通常の社会生活への復帰ならびに就労は不可能で、その障害等級は後遺障害別等級表の七級四号に該当する。

四  損害

1  治療費 総額金四四万七、五七五円

昭和五〇年三月二四日以降の治療費は原告において支払い、同日から昭和五一年一〇月二五日迄、原告が支払つた治療費合計は金四五万六、七三一円であり、同金額から自賠責保険の傷害補償金として支給を受けた金七万三、五七〇円を控除すると残は金四四万七、五七五円となる。

2  付添看護費 総額金九六万〇、六五〇円

(一) 昭和四九年七月三日から昭和五〇年一月一二日迄、原告の妻が付添い、一日金二、五〇〇円の割合による一九四日間分の合計四八万五、〇〇〇円

(二) 昭和五〇年一月一三日から同月二九日迄および同年二月二日から同年四月一四日迄、家政婦が付添い、その合計金四六万八、一五〇円

(三) 昭和五〇年一月三〇日から同年二月一日迄、息子の嫁が付添い、一日二、五〇〇円の割合による三日間の合計金七、五〇〇円

3  入院雑費 総額金二七万四、二九九円

昭和四九年八月一日から昭和五〇年四月一五日迄の合計金二七万四、二九九円

4  休業損害 総額金四一三万四、五五九円

原告は本件事故前、農業、養豚業および養豚請負業を営み、それぞれ月収平均金五万八、九〇八円(農業、年収だと金七〇万六、八九八円)、金四万三、六六三円(養豚業、年収だと金五二万三、九六〇円)および金四万円(養豚請負業、年収だと金四八万円)の収入を得ていたから一カ月の平均収入は合計金一四万二、五七一円となるところ、原告は本件事故により昭和四九年六月二七日から昭和五一年一〇月二六日迄の二九ケ月間、休業を余儀なくされた。その休業による損害は合計金四一万四、五五九円となる。

5  後遺症による逸失利益 総額金六五二万四、九二八円

原告は本件事故の負傷による後遺症を被らなければ満七五歳まで就労可能であつたから、その就労可能年数は症状固定時である昭和五一年一〇月二五日から七年七ケ月となるところ、そのホフマン係数は六、二八六三、原告の年間収入は金一七一万〇、八五二円(一四万二、五七一円×一二ケ月)であるから、右逸失利益の合計は金一、〇七五万四、九二八円となる。

原告は自賠責保険より後遺障害保険金四一八万円の支払をうけたので、右額から右保険金を控除すると、その残は金六五七万四、九二八円となる。

6  慰藉料 総額金一、二八〇万円

(一) 入・通院慰藉料 合計金三八〇万円

昭和四九年六月二七日から昭和五〇年四月一四日迄九ケ月半入院し、入院中の慰藉料として一ケ月金二〇万円の割合による金一九〇万円および昭和五〇年四月一五日から昭和五一年一〇月一四日迄、一九ケ月通院し、通院中の慰藉料として一ケ月金一〇万円の割合による金一九〇万円の合計額。

(二) 妻ちよが、原告の看護のため、過労が原因で死亡したことによる慰藉料として金二〇〇万円

(三) 後遺症の慰藉料として金七〇〇万円

原告は本件事故による傷害の後遺症で今後一生に亘り、精神に著しい傷害を残し、かつ終身労働に服することができないことによる苦痛は甚大であり、右の慰藉料としては金七〇〇万円が相当である。

7  弁護士費用 総額金二五一万二、七五九円

前記1ないし6の総計は金二、五一二万七、五九七円となるから、弁護士費用としてその一割である金二五一万二、七五九円を請求する。

右1ないし7の総計金二、七六四万〇、三五六円

五  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自金二、七六四万〇、三五六円および弁護士費用を除いた内金二、五一二万七、五九七円については、本件事故日である昭和四九年六月二七日から、弁護士費用の金二五一万二、七五九円については、本訴状送達の日の翌日である昭和五〇年二月二八日から支払済迄、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する認否

一  請求原因第一項の1、2の事実は認め、3、4の事実については争う。

二  同第二項については否認する。

三  同第三項は不知。

四  同第四項は否認する。

第四被告らの主張

一  名義貸与

本件加害車は昭和四九年四月二八日被告一義が購入したものであり、当時、被告一義は印旛郡八街町八街へ一九九番地笹引団地内に居住していたため、右住居地では車庫証明ができないので、車庫証明の対策上、便宜的に印旛郡八街町東吉田三〇四に居住する祖父の被告房之進宅の庭を本件自動車の車庫として使用するということで、本件加害車の所有名義人に被告房之進の名義を借用したものであつて、本件加害車に対する保険、税金、その他の維持費は被告一義が全て支出し、その保管、管理についても自宅団地内の路上に駐車させて、同被告が通勤用および業務用として使用していた。

被告房之進は明治三六年三月一〇日生れで被告一義が本件加害車を購入した当時、年齢七三歳であり、昭和四十七年三月から今日に至る迄、高血圧症、動脈硬化症、坐骨神経痛を患つていて、病身であり、これ迄、同被告が本件加害車を自己のために使用して、運行利益を受けたとか、その運行について、管理・支配を及ぼすということはなかつた。

二  免責

被告一義は本件事故時、八街町吉倉十字路方面から同町神明町方面に向い、時速約五〇キロメートルで進行しており、前方四七メートル先で、道路の右側を自転車に乗つて走行してくる原告を発見したが、右自転車は右折の合図をしていなかつたので、そのまま直進すると思つていたところ、右自転車は二九・六メートル前方で急に、道路中央寄りに右折してきた。そこで被告一義は衝突の危険を感じて急制動を施したが、間に合わず、右自転車と衝突した。従つて、本件事故は原告の急な右折に起因するものであり、被告一義は無過失であつて、本件加害車に構造上の欠陥や機能の障害も存しなかつた。

三  過失相殺

仮に被告一義に過失があるとしても、本件加害車が前方から走行してくるのを認めていながら、右車の動向に注意せず、道路を横断した原告の過失は重大であるから、少くとも九割の過失相殺がなされるべきである。

四  弁済

原告に於て自認している保険会社からの受領分合計金四二五万三、五七〇円の他に、原告は被告一義から次の通り金員の支払をうけた。

(一)  治療費 合計金六一万〇、六三四円

右は昭和四九年六月二七日から昭和五〇年一月三一日迄の分

(二)  付添看護費 合計金二万八、九〇〇円

右は昭和四九年七月二日から同月七日迄の分

(三)  雑費 合計金一〇万五、四六五円

右は昭和四九年六月二七日から同年七月三一日迄の分。右(一)ないし(三)の総計金七四万四、九九九円

(右額のうち、金二六万〇、一九二円につき、その後保険会社より支払補填をうけた)

第五被告らの主張に対する認否、反論

一  原告がその主張の額の弁済をうけた事実は認める。

二  原告は本件事故当時、斎木製作所に所用のため自転車に乗つて行つたのであるが、横断前に自転車を降り、約六二メートル前方に本件加害車を見て十分渡れるものと判断し、道路を横断したものであつて、急に右折したものではなく、原告には過失がない。

第六証拠関係〔略〕

理由

第一本件事故の発生

一  原告主張の日時、場所で本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば本件事故の被害者は原告で、加害車両を運転していたのは被告一義であることが認められる。

本件事故の態様については、後記第二の二および第四で認定する通りである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第三号証、同乙第四号証によれば、被告房之進は本件加害車の所有名義人であり、その保管場所も同被告の住所地となつていることが認められるところ、同被告は本件加害車の真の所有者は被告一義であるが、被告一義の住所地では車庫証明がとれないので、便宜的に、被告房之進がその名義を被告一義に貸したにすぎず、同被告は運行供用者ではないと主張するので、この点につき検討する。

成立に争いのない乙第一、第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第三号証および被告一義、同房之進の各供述を総合すると、被告一義は被告房之進の孫であつて、被告房之進の住居地から車で四分程の処に別所帯を構えているものであるが、本件加害車は被告一義が本件事故の約二カ月前である昭和四九年四月二六日代金六五万円で購入したものであり、そのうち金三〇万円は被告房之進が出していること、ガソリン代、車の税金等は被告一義において負担しているものの強制保険の契約者は被告房之進であることが認められ、さらに、同車は主として被告一義が会社への通勤用に使用していたものであるが、被告房之進の供述によれば、「被告一義に病院へ乗せて行つて貰うことも含めて三〇万円出した。」「本件加害車を購入する際、被告一義が被告房之進を車に乗せて病院に通院させる約束があつた。」「被告房之進は通院に歩いて行くこともあるが、原則として車に乗つて行つており、二カ月間に約二〇回位は被告一義が運転する本件加害車で通院した。」等の事実が認められるものである。これら事実からすると被告房之進は本件加害車につき、運行支配と運行利益を有すると認められるから、運行供用者というに妨げず、右認定を覆えすに足りる証拠は本件全証拠中に存しない。

そして、本件加害車の運転者である被告一義にも過失が存すること、次記二の通りであるから、被告房之進は原告に対し、自賠法三条による賠償責任を負うものである。

二  一般不法行為責任

前掲甲第一号証、成立に争いない乙第五号証および被告一義の供述によれば、被告一義は本件加害車を運転して八街町吉倉十字路方面から八街町神明町方面に向け、時速約五〇キロメートルで進行し(本件事故当時、事故現場道路には速度規制がなされていなかつた。)本件衝突場所から約四七メートル手前で自転車に乗つて対進してくる原告を発見したが、右自転車はそのまま直進するものと思い、同一速度で進行したところ、約二五メートル先で右自転車が斜めに横断して加害車の進路に進入してきたので、衝突の危険を感じて急ブレーキを踏んだが間に合わず、本件加害車前部を自転車の左側中央付近に衝突させ、原告をボンネツトに跳ね上げた後、六・五メートル先の地点に転倒させたことが認められる。

右認められる事実によれば、被告一義は約四七メートル手前から、対進してくる原告を発見していたのであるから、減速し、又、警笛を吹鳴させて、原告がそのまま直進するか、どうか、その動静に十分注意を払うべきであつたのに、原告が直進するものと軽信して、漫然と進行し、減速せず、警笛も吹鳴せず、かつ危険を感じた後も転把して衝突回避すべきであるのに、急制動をかけたのみで左転把しなかつた過失がある。

なお、検証の結果中には、被告一義の「原告の自転車は加害車が一九・一メートルの距離に近付いたとき、横断を開始した」旨の指示説明が存するが、衝突時事故現場道路にしるされた本件加害車のスリツプ痕は右車輪一三・五メートル、左車輪一三・六メートルの長さであるから、一九・一メートル先で横断しはじめたのであれば右横断開始時から急制動をかけるまでに加害車は五・五メートル(空走距離)しか進行していないことになり、その反応時間は〇・三九秒となるが、一般に運転者の反応時間は〇・六ないし〇・八秒と認められる(交通事故損害賠償必携資料編資料5―48参照)のであつて、前記算出される反応時間では短かすぎるから、右指示説明は容易に措信できない。

よつて、被告一義は原告に対し、民法七〇九条による賠償責任を負う。

第三損害

一  原告の負傷および後遺症状

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二号証の一、二、同第一三号証、原本の存在と成立共に争いのない甲第一七、第一八号証、証人林烈の供述により真正に成立したと認める甲第一四号証の一ないし一八および同証人の供述に原告本人の供述(第一、二回)を総合すると次の事実が認められる。

1  原告は本件事故により頭蓋骨々折、硬膜外および硬膜下血腫、外傷後水頭症の傷害をうけ、昭和四九年六月二七日より国立千葉病院に入院して、血腫除去術、気管切開術、頭蓋骨形成術等の手術をうけ、同年一〇月四日軽快退院、同月一二日外傷後水頭症により再入院し、脳室腹腔短絡術を施行し、昭和五〇年四月一五日退院するまで合計二八七日間右病院に入院した。

また、昭和四九年一〇月七日から昭和五一年一〇月二五日まで国立千葉病院に通院(実通院日数二三日)し、昭和五〇年五月から昭和五一年一〇月二六日まで伊藤物療院へマツサージのため、通院した。

2  原告の前記傷病は昭和五一年一〇月二五日症状固定し、後遺症状として、右不全片マヒ、軽度の構音障害(時にサ行、パ行につき)、軽度の歩行障害、右筋力低下および筋萎縮、右人差指の屈曲不能、右手挙手不能、記銘力、判断力、計算力の低下等が残存し、通常の社会生活への復帰ならびに就労は不可能で、自賠責保険による後遺障害等級は第七級と認定されていることが認められる。

二  治療関係費

1  治療費 総額金一〇七万〇、三六五円

(一) 入院治療費中、昭和四九年六月二七日から昭和五〇年一月三一日まで、計金六一万〇、六三四円を要した事実は当事者間に争いがなく、証人林烈の供述により真正に成立したものと認める甲第七号証の一ないし二一および前掲甲第一四号証の一ないし一八によれば、(二)昭和五〇年三月二四日から昭和五一年一〇月五日まで、国立千葉病院分治療費計金一六万二、七三一円を、(三)昭和五〇年五月から昭和五一年一〇月まで、伊藤物療院分の治療費計金二九万七、〇〇〇円を各要し、その総計は金一〇七万〇、三六五円となることが認められる。

2  付添看護費 総額金八九万一、〇五〇円

(一)付添看護費として、昭和四九年七月二日から同月七日まで、計金二万八、九〇〇円を要した事実は当事者間に争いがなく、証人林烈の供述により真正に成立したと認める甲第四号証の一ないし一〇、同証人および原告本人の供述(第一回)ならびに弁論の全趣旨と経験則によれば、(二)昭和四九年七月三日から昭和五〇年一月一二日までの一九四日間は原告の妻が付添い、一日二、〇〇〇円の割合による計金三八万八、〇〇〇円を、(三)同月一三日から同月二九日までおよび同年二月二日から同年四月一四日までは家政婦が付添い、計金四六万八、一五〇円を、(四)昭和五〇年一月三〇日から同年二月一日までの三日間は息子の嫁が付添い、一日二、〇〇〇円の割合による計金六、〇〇〇円を各要し、その総計は金八九万一、〇五〇円となることが認められる。

3  入院雑費 総額金三七万七、三四四円

(一)入院雑費として、昭和四九年六月二七日から同年七月三一日まで、計金一〇万五、四六五円を要したことは当事者間に争いがなく、証人林烈の供述により真正に成立したものと認める甲第五号証の一ないし二四および同証人の証言と経験則によれば、同年八月一日から昭和五〇年四月一五日までは、計金二七万一、八七九円の入院雑費を要したものであり、右雑費の内容は本件事故と相当因果関係にあるものと認められ、右総計は金三七万七、三四四円となる。

二  逸失利益

成立に争いのない甲第六号証の一、証人飯尾千一の供述により真正に成立したと認める甲第六号証の二、三、証人林烈の供述により真正に成立したと認める甲第一六号証、右証人飯尾、同林の各供述および原告本人の供述(第一回)と経験則ならびに前記認定の入・通院期間・受傷・後遺障害の部位、程度を総合すると、次の事実を認めることができ、同事実を左右するに足りる証拠は本件全証拠中に存しない。

1  休業損害 総額金三五四万二、九六八円

(一) 原告は本件事故当時、農業、養豚業および養豚管理(主として、養豚場の清掃)に従事し、農業は一町七反の耕地にサトイモ、落花生、シヨウガ等を作つて年収金七〇万六、八九八円程度の収入をあげていた。そして原告の娘が農業を手伝つており、植付、収入等の農繁時には、臨時に人を雇う他、原告の息子やその嫁も手伝つたから、原告の右収入に対する寄与率は七割とみるのが相当である。従つて、原告の稼働できなくなつたことによる農業収益の損害は右年収の七割に当る金四九万四、八二八円となる。また原告は当時、養豚業を営み、五頭の豚を飼育し、その売買により飼料等の経費を除き、年収ほぼ五二万三、九六〇円の収入を得ていたものであり、更に飯尾千一の養豚場の清掃をして一カ月金四万円当り(年収四八万円)の収入を得ていたことが各認められる。

(二) そうすると、原告の年収は金一四九万八、七八八円となるところ、原告は本件事故により昭和四九年六月二七日から症状固定時の昭和五一年一〇月二五日までの二八カ月と一一日間(一カ月を三〇日として計算)休業を余儀なくされたと認められるから、原告の休業による逸失利益は計金三五四万二、九六八円となる。

1,498,788円/12×(28カ月+11日/30)=3,542,968円

2  将来の逸失利益 総額金四〇九万三、一九〇円

原告は症状固定後も、本件事故による受傷の後遺症で就労不能な状態にあると認められ、現に農業は本件事故直後から原告に代つて、原告の息子烈が会社勤めをやめ、それに従事して、現在に至つており、養豚業と養豚管理については、それらをやめてしまつたことが認められる。

然して、原告は明治四二年六月二四日生れで、その就身可能年数は昭和五一年一〇月二六日から三年間(原告七〇歳)と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、それは金四〇九万三、一九〇円となる。

1,498,788円×2.731(3年のホフマン係数)=4,093,190円

四  慰藉料 金六八〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度、原告の年齢ならびに原告の妻ちよが付添看護による過労も一因となつて、原告の入院中に死亡したこと(弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第八号証の一、二および証人林烈の供述により同事実を認め得る。)その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は、金六八〇万円を以て相当とする。

右一ないし四の損害総額 金一、六七七万四、九一七円

第四過失相殺

前掲甲第一号証、同乙第五号証、検証の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)に原告(第一、二回―但し、後記認定に反する部分を除く。)・被告一義各本人の供述を総合すると次の事実を認め得る。

原告は本件事故時、斎木製材所に行くため自転車に乗つて神明町方面から吉倉十字路方面へ、道路左側を進行し、斎木製材所の手前で斜め向いにあるバス停付近から、右製作所の出入口(門柱)に向け、斜め横断した。右横断開始時には既に本件加害車が時速五〇キロメートルの速度で前方約二五メートルの地点に、近付いてきていた。そして横断開始地点から約五メートル斜めに進行してアスフアルト舗装の道路中央より約九〇センチメートル対向車線に侵入した地点で本件加害車と衝突した。

右事実によれば、原告にも横断の際の安全確認義務の懈怠および横断方法の不適切の過失が認められる。

原告本人の供述(第一、二回)および検証の結果中には、「原告は自転車を降り、左側に自転車をひいて横断した。」旨の供述や指示説明が存するけれども、前示認定によれば、時速五〇キロメートルの加害車が約二五メートル進行した間に原告も約五メートル進行しているから、原告の速度は、秒速約二・七メートルであり、かつ原告は衝突時、加害車のボンネツトに跳ね上げられたこと、更に検証の結果により訴外斎木平が大人の頭の高さに、原告の身体が宙に浮いたのを目撃している等の事実が認められるから「自転車を降りて横断した」旨の前記供述は、右の事実よりして措信し難い。

そして、被告一義の過失と原告の過失との割合は、原告においては、本件加害車が約二五メートル先に対進していたに拘らず、横断開始したこと、しかも加害車は直進車であるから加害車の進行を優先すべきであつたこと、斜め横断等の事実から四、被告一義においては、原告を発見しながらその動静に注意を欠いて、減速せず、時速五〇キロメートルの速度のまま走行し、警笛も吹鳴せず、ハンドルも切らなかつたこと、および原告車が自転車であり、原告が当時六五歳の老人であつた等を勘案して、六とするのが相当である。

なお、原告は本件加害車のスリツプ痕の長さと本件現場道路の摩擦係数は一・二以上であるとして、それを前提に加害車の速度は時速六五キロメートル以上であつたと主張するが、アスフアルト舗装で、道路が乾燥し、新しくざらざらしている状態であつても、摩擦係数が最大一・二となるには時速五〇キロ以下であることを要し、右状態で時速五〇キロ以上のときは、摩擦係数は〇・六五から一・〇〇と考えられる(交通事故損害賠償必携資料編、資料5―48第三表、第四表参照)から加害車の速度が六五キロ以上であると推認することはできない。本件加害車のスリツプ痕の長さから、時速五〇キロメートルとして摩擦係数を算定した場合、それは〇・七一となり、同数値は甲第九号証の一、二(本件事故現場道路の写真であることは当事者間に争いがない。)より認められる路面状態(アスフアルト舗装で、ざらざらした路面であることが認められる。)に照らしても、実情からそれ程隔つた数値ではないと推認されるから、被告一義の「時速は約五〇キロメートル」との供述は一応措信し得るが、その反対に原告の前記主張を裏付けるに足りる証拠は全証拠中に存しない。

よつて、原告の前記損害総額からその四割を減ずると金一、〇〇六万四、九五〇円となる。

第五損害の填補

原告の被つた損害のうち、原告が合計金七四万四、九九九円の支払をうけた事実は当事者間に争いがなく(それが被告房之進の弁済によるものか、或いは被告一義の弁済によるものかは、ともかくとして)、その他に原告は保険会社より後遺障害分として金四一八万円、一般損害分として金七万三、五七〇円の支払をうけたことを自認しているから、合計金四九九万八、五六九円の損害分が填補されているものである。

よつて、原告の過失相殺後の損害額から右填補分を差引くと残損害額は金五〇六万六、三八一円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理期間、前記認容額その他本件に現われた一切の事情を勘案すると、弁護士費用として金六〇万円を本件事故と相当因果関係にある原告の損害として、被告らに賠償させるべきである。

第七結論

以上、認定してきたところによれば、被告らは各自、原告に対し、金五六六万六、三八一円、およびうち弁護士費用を除く金五〇六万六、三八一円に対する本件不法行為の日である昭和四九年六月二七日から、うち金六〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容するが、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 原昌子)

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